あかりの日記

おっ あっ 生きてえなあ

タイに行ってきた話③

セターさんが総理大臣になって、タイの人みんな、来年のソンクラーン、楽しみにしてます。

ガイドのおっちゃん

 

4日目

 

読経

朝6時半頃、ホテルの近くの道を散歩。既に道端の屋台は営業を開始し、もくもくと煙が立ち上る。地元の人が何やら騒がしく買い物をしている。足元を見ると、コンクリートが剥がれてがたがたの道にゴミが散乱し、大きめの蠅が沢山飛んでいる。道の脇には何やらよだれを垂らした犬や猫がずったらと闊歩しているが、噛まれたら多分命はない。この時間は、タイパンツを履いた観光客はあまりおらず、ホテルの綺麗な朝飯を食べているだろう。現地の人は、露店の焼き鳥を喰い、仕事へ向かう。

そこに響き渡る、ローファイの読経。タイ語か、パーリ語か、サンスクリットか?黄色い布に身を包んだお坊さんが、肩に鉢をぶら下げ、托鉢をして回っている。これを見たくて外に出てみたんだ。都市の汚い路面を、お坊さんは裸足で歩く。読経の間、おばちゃんが温かそうな飯を鉢に入れ、これまた蠅の飛び交う地面に跪拝している。前日のガイドのおっちゃんによれば、タイのお坊さんは托鉢されたものしか食べられず、さらに食事は午前中だけだが、それでもお坊さんが食べ物に困ることはおよそなく、むしろ幸せで太る人が多いようだ。タイ人と仏教、仏教とタイ人。

僕は少し申し訳なくなり、一応手を合わせ、ホテルに踵を返し、それはそれは綺麗な朝飯を喰らった。

 

 

少し、タイの仏教についてガイドのおっちゃんに聞いたことをメモしておく。(基本的には石井米雄『タイ仏教入門』 - あかりの日記ここで書いたことと大きく異ならなかった。古い本なのにすごい。)まず、タイ人は2年間の徴兵が必須である。それとは別に、男子は出家をする人が多い。強制ではないが「出家して一人前」と考えられているようだ。それに加えて大きいのが、「出家すると周りの人にいいことがある」という信仰だ(これは、前の日記で書いた「タンブン」の信仰だろう。)。子供が出家すれば親は天国に行ける。社員が出家すれば社長にいいことがある。だから、社長は社員の出家のための休暇は、非常に気前良く取らせてくれる。還俗も自由だ。タイの多くの若者は出家し、還俗する。観光地やデパートなどでも、黄色い衣に身を包んだ若いお坊さんをよく見た。ガイドのおっちゃんももちろん、短期間出家したことがあるそうだ。上で書いたとおり、お坊さんの食事は午前のみ、托鉢されたもののみだが、飢えることはまずない。みんな一番美味しい料理を寄進するし、親も子供のために料理をこさえて、寺まで持って行ったりもする。タブーはなく、出されたものは食べなければならない。結婚がダメなど、戒律は厳しいが、お坊さんの生活には俗世の悩みもなく、概してみんな幸せのようだ。タイでは尼僧の出家者もいる(白装束をまとう)が、これは男性とは異なり、悲しいことがあった時に出家するものなのだそうだ。旅行中に尼僧もたまーに見かけた。

タイの一般家庭には、仏壇もしくは入り口に魔除けの柱がある。寺院は現地の守り神である蛇の装飾が施されているし、よく、ヒンドゥー教の守り神の鬼がいたりする。タイでも日本と同様、仏教は、民間信仰とごちゃ混ぜに信仰されている。

ブッダン・サラナン・ガッチャーミ、ダンマン・サラナン・ガッチャーミ、サンガン・サラナン・ガッチャーミ(帰依仏、帰依法、帰依僧)。この「三法」のうちの、「サンガ」に対する信仰が色濃く残っているのが、タイなどの上座部仏教の極めて顕著な特徴だ。

 

帰ってきた赤シャツの英雄

さて、この日もtripullで予約したバンコク郊外ツアー。ガイドは前日と同じおっちゃんだった。

前の日から、僕はタクシンのことばかり聞いている。

すこし整理すると、タイでは5月の選挙から長らく首相が決まっていなかった(この日記参照。柿崎一郎『物語 タイの歴史 微笑みの国の真実』 - あかりの日記)が、僕らが出国するちょうど前日に、タクシンと同じ政党のセター氏(不動産業の実業家)が首相に決まり、同日にタクシンがドーンムアン空港に帰国した。帰国と同時にタクシンは、前政権の元でなされた汚職等の罪で有罪判決を宣告されるが、病気により刑務所ではなく病院に護送されていた。ホテルのテレビをつけても、ニュースではタクシンの容体ばかり報道しているっぽい。

タイ語読めないが、タクシンの病状について何か書いてそうなのは分かる

おっちゃんによれば、タクシンが帰国したら病院に入ることはみんな分かっており、この後王様(ワチラーロンコーン、ラーマ10世)によって恩赦されることもみんな分かっている。王様はタクシンと仲良しで、タクシンに沢山お金をあげた。セターさんはタクシンの「子分」で、実質はタクシン政権だ。

タクシンは、首相時代に麻薬の取り締まりを非常に厳しくしたため、タイの裏社会からかなり恨まれている。そのため、セター氏以外が首相になれば間違いなく殺されるだろう。タイは3割がサラリーマン、7割が農家だが、タクシンは政権時代に農家にばらまき行政のようなものをやったため、農家の支持が大きい。ちゃんと選挙をやればタクシン派は強い。しかし、タイの選挙は不正だらけ、票は金で買える(Thai-styleだそうだ)ので、反タクシン派のプラユットが長く政権を握ってきた。

人々はセター政権に希望を抱いている。セターの公約は、来年のソンクラーン(4月の旧正月。タイ各地で縁起がいい行為として水をかける行為が行われる)に国民登録をしている16歳以上の国民全員に1万バーツを配ること、来年1月1日から、最低賃金(日給)を350バーツから600バーツまで引き上げること、そして、大卒初任給を1万5000バーツから2万5000バーツに引き上げること、だそうだ。タイは前のプラユット政権時代に多額の国債を発行しており、予算が足りるとは思えない。おっちゃんにそのことを聞くと、「確かに社長さんたちはみんな反対しているが、みんなに1万バーツを配れば消費が拡大するので、企業の儲けも増えるし、税収も増えるから大丈夫。セターさんはビジネスで成功した賢い人だから、きっとうまくやってくれる」だそうだ。うーん…これがThai-style。マイペンライの国。

ガイドのおっちゃんもコロナ禍の頃は、仕事が無くて炎天下の街中で屋台をやっていた。タイ人はほとんど病気で死ぬらしい。糖尿病、脳卒中、がん…*1おっちゃんも糖尿病だ。10年前の洪水で田んぼや養殖池をやられた農民は首を括った。タイにも健康保険的なものはあるが、安く使える国立病院は古い薬しかない。国立病院の医者は昼休みに呼んでも来ない。最新の薬を使って、24時間の医療を受けられる私立病院には、庶民は入れない*2

タイの民衆は、来年のソンクラーンを楽しみに待っている。タイと経済、経済とタイ。それでもタイなら、何だか未来は開けていそうな気がする。まだまだこれからの国だ。広大な未開発の土地と安い人件費が眠っている。

タクシンのことばっかり聞いていたら、タイの政治家に立候補したら?、と言われてしまった。僕は根回しとか裏取引とか出来ないから、タイの政治家は絶対無理だな。日本でも無理かw

 

観光

随分脱線してしまった。

まずはバンコク県のワット・プラケオ。有名なエメラルド寺院。

 

 

高さ69メートルの大仏は日本風らしい



この施設は歴史的文化財…ではない。建立は7年前の2016年だ。高名なお坊さんが寄進を募ったところ、それは沢山集まって、このような巨大な施設ができ、その時から観光名所になったらしい。今なお国民の間に息づく信仰。そして何より、バブル時代の大観音を思わせる(というかそれ以上の)巨大建築。これが勢いがある、アジアの国だ。


続いてお隣のチャチューンサオ県に入る。バンコクからわずか50キロほどで、一面田んぼのど田舎。草むらをふむと毒蛇が出るらしい。そして、民家では人々は自衛のために銃を持っているそうだ。

そこにいきなり現れた金ピカ寺、ワット・パクナム・ジョーロー。

寺の裏手のタークシン王像。

この寺は全体が金ピカ(金メッキ)だ。この地は、コンバウン朝に滅ぼされたアユタヤ王を救出するためにタークシンが軍勢を駐屯させた土地であり、その後王になったタークシンによって戦勝を記念して建てられたようだ*3。タークシンって今の王朝に滅ぼされたのに、結構人気あんだな。BTS(タイのモノレール)にもタークシンの名前の駅あったし。ラーマ1世(チャオプラヤ・チャクリ)はタークシンの信頼する友達だったから、タークシンは油断していた。そのためラーマ1世は彼を殺し、自らが王位についた。タイ人にとって一番気をつけなければいけないのは、一番の友達。…なんだそうだ。この施設にはあまり観光客がおらず、過ごしやすかった。

 

そして、本日のメイン、ワット・サマーン・ラタナーラーム。所謂「ピンクのガネーシャ」がいるところ。

 

ガネーシャへの願い事は手前にいる鼠に。ガネーシャに直接言っても聞いてくれないぞ。

タイは上座部仏教なので、独りお釈迦様を信仰するのみで、観音信仰はないはずだが…

立ち並ぶタイの小僧さん、一休さん関羽、etc...

???

 

ここも新しい施設らしく、やはり寺の住職が寄進を募ったところ、いっぱい集まったようだ。信心深いんだか、金持ちの金遣いが荒いんだか。ところで、このガネーシャヒンドゥー教の神様らしい。また、その横には、タイでは信仰されていない大乗仏教の観音像がある。お釈迦様ももちろんいるし、関帝廟孔子廟もあれば、一休さんもいるし、ピカチュウもどきやドラえもん、アラレちゃんもいる。ここは…

おっちゃんによれば、「どの宗教も言っていることは同じ。いいことをすると天国に行ける、そう言っている。」だそうだ。蓋し、真理である。僕らの信仰と同じだな。

 

その後、昼食を済ませ、バンコクに戻って解散。おっちゃん2日間ありがとう。また同じ会社でツアーを組むことがあったら指名するね。それまで…生きろよ…

 

さて、今まで田舎やスラムばっかり見てきたので、少しはハイソなタイも見学しておこう。BTSアソーク駅の「ターミナル21」へ。

 

ここはすごい。ここだけ、銀座三越と変わらん。中の綺麗さも、店舗も、物の値段も(笑)。タイでトイレに温水便座あるの、ここだけなんじゃないか。タイの貧民とブルジョワの格差を実感。

ここのレストラン、"Savoey"にてちょっと高級ディナー。

 

プーパッポン・カリー。マジで美味かった。おいくらかは想像に任せるぞ。

 

金持ちと貧民の、激しい格差。それぞれの生活があって、それぞれの主張がある。選挙は不正だらけだし、死人が出るようなデモもやるし、クーデターも起こる。王様に歯向かったら終身刑で、毒を盛られて殺されるらしい。そんな状況で、良いんだか悪いんだか知らんが、少なくとも、政治はダイナミックに行われるんだぜ。(別に褒めているわけではないけど)

 

 

 

*1:タイの飯を食っていたらなんだか分かる気がした。甘さ、辛さ、全てやりすぎであり、無許可で営業している屋台飯は衛生状態もそれほど良くない。

*2:ここまで観光客に話してくれるのもなかなかだなという気もするが(笑)

*3:タイの歴史は柿崎一郎『物語 タイの歴史 微笑みの国の真実』 - あかりの日記参照