最高裁令和4年(受)第324号同5年3月24日第二小法廷判決・民集77巻3号803頁
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【判示事項】
事件が一人の裁判官により審理された後、判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が民訴法254条1項により判決書の原本に基づかないで第1審判決を言い渡した場合において、全部勝訴した原告が控訴をすることの許否
【事案の概要】
Xは、第1審において、いわゆる調書判決(民訴法254条1項)により、請求全部認容判決を受けたが、その判決は弁論終結時の裁判官とは異なる裁判官が言い渡したものであり、直接主義(民訴法249条1項)に違反するものであった。
Xは、原判決を取り消し、改めてXの請求を認容することを求めて控訴したが、原審は、Xが第1審で全部勝訴判決を得ており、控訴の利益がないとして、控訴を却下した。そこで、Xが上告受理の申立てをした。
【裁判要旨】
破棄差戻
第1審において、事件が一人の裁判官により審理された後、判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が民訴法254条1項により判決書の原本に基づかないで第1審判決を言い渡した場合、全部勝訴した原告であっても、第1審判決に対して控訴をすることができる。
☆検討
1 調判することができる裁判官
まず、弁論終結時の裁判官と異なる裁判官が、調書判決をすることはできない。
判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする(民訴法249条1項)。これは、弁論終結時の裁判官と解されている。そのため、いわゆる原本判決(民訴法252条)においては、判決書の作成は、弁論終結時の裁判官が行わなければならない。他方、判決の言渡しは、判決作成行為そのものではないから、弁論終結時の裁判官ではない裁判官が、 適法に作成された原本を代読して言渡しを行うのは問題ないとされている。原判決は、原本判決の言渡しは「既に内部的に成立している判決の内容を告知するものにすぎない」ので代読オッケーとしており、この点は、本判決も異なる立場をとるとは言ってない。
これに対し、調書判決は、判決書の原本に基づかずに行われるものであり、口頭弁論期日における言渡しによって判決が作成されるものと解される。調書判決の言渡しは、弁論終結時の裁判官が行わなければ、249条1項違反である。
つまりこういうことだ。異動前の裁判官は、調判の予定の事件について、自分が言い渡さないのに弁論終結だけするのはダメ。移動後の裁判官は、着任後最初の期日が調判の言渡期日になっている事件があったら、期日を取り消して弁論を再開し、再度期日指定をして、弁論更新(249条2項)をした上で、改めて弁論を終結する必要がある。
2 控訴の利益
上記の点に違法がある場合、1審で全部勝訴した原告であっても、控訴することができる。本判決はそのことを判示した法理判例である。
控訴人が、原判決に対して不服を主張する利益(控訴の利益)を有することは、控訴の適法性要件の一つと解されている。控訴の利益の有無は、原則として、原判決主文が当事者の申立てより不利益であるといえるかにより決するとする説(形式的不服説)が通説である。
本判決も、形式的不服説に立ちつつ、本件のような場合には、例外として、控訴の利益を認める旨の判断をした。本判決は、その理由として、①民事訴訟の根幹に関わる重大な違法がある、②再審事由に当たる(民訴法338条1項1号)、という2つを挙げている。
再審によって紛争が蒸し返される可能性があることを考えれば、結論としてはまあ妥当なのだろう。しかし、②再審事由があるからといって、必ず控訴できるのかはよくわからない。本判決は①の方を重視したのかも知れないからな。
3 下級審に告ぐ
本判決の言渡しの日を見てほしい。3月24日、異動期のまっただ中だ。バタバタしているJの中には、この判決を見てヒヤッとした人が、ちょっとはいたかもしれない。
本件も、異動の前か後か、少なくともどっちかのJが気づいてたら、こんな恐ろしい判決が出ることはなかったのだ。ちゃんとしろよ、という、最高裁からのメッセージだったのかなあ。