殺人や性犯罪等の一定の類型の刑事事件に係る刑事被告事件の被害者等は、当該被告事件の継続する裁判所に対し、損害賠償命令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求について、その賠償を被告人に命ずること)の申立てをすることができる(犯罪被害者の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(以下「法」という。)24条1項)。被害者等は、当該被告事件の弁論の終結までに申立てを行う(同項)。申立についての審理は、終局裁判の告知がされてから行われる(法27条)。審理を行う審理期日は原則4回までである(法31条1項、3項)。
さて。刑事の一審係属中に、被害者が損害賠償命令の申立てをして、被告人について有罪判決が言い渡された。ここで、被告人が無罪を主張して控訴した、というケースを考える。(割とあるんじゃないか?)このとき、被告人は損害賠償命令の手続についてはどうすればいいだろうか。
まず、前提として、損害賠償命令の手続において刑事裁判の事実認定に法的拘束力があるわけではないが、刑事裁判をした裁判官とおんなじ裁判官が審理判断をするわけなので、実際上、損害賠償命令手続においては、被告人側は、責任論について争う余地はないのだろう(制度自体がそれを前提としているだろう。)。
それで、損害賠償命令を認容する決定がされたとする。被告人がこのまま放置して確定したら、仮に刑事被告事件が逆転無罪になっても、損害賠償命令は残ってしまう。かといって、法には、刑事被告事件が控訴されても、それによって損害賠償命令の審理を止めるというような規定はない。審理は4回までなので、すぐに終わってしまうだろう。
被告人側は、決定が出る前に民事訴訟に移行させることを求める旨の申述ができるが、移行を認めるには相手方の同意が必要である(法39条2項2号)。被害者はまあ同意はしないだろうな。
そうすると、被告人側としては、損害賠償命令の確定を防ぐには、一度損害賠償命令を認容する決定を受けた後、これに対して、責任論を争って異議の申立て(法34条)をするしかないのだろう。仮宣とか付いちゃうけど、それは、制度上仕方ないのだろう。
おそらくおれはこのなじみのない手続についてこれから色々と調べなければならないだろう。やれやれ、参った参った。