あかりの日記

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【判例】最高裁令和4年(許)第16号同5年2月1日第三小法廷決定・民集77巻2号183頁

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【判示事項】

 破産管財人が別除権の目的である不動産の受戻しについて前記別除権を有する者との間で交渉し又は前記不動産につき権利の放棄をする前後に前記の者に対してその旨を通知するに際し、前記の者に対して破産者を債務者とする前記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときに、その承認は前記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有するか

 

【事案の概要】

 本件は、X所有の不動産について、Xの破産手続終了後、Yを根抵当権者とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の実行として競売の開始決定がされたところ、Xが、Xを債務者とする本件根抵当権の被担保債権(以下「本件被担保債権」という。)が時効によって消滅したことにより本件根抵当権は消滅したと主張して、Yに対し、前記競売手続の停止及び本件根抵当権の実行禁止の仮処分命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。

 原原審が本件申立てを却下したところ、Xは抗告許可の申立てをし、原審が抗告を許可した。

 前記破産手続において、Xの破産管財人(以下「本件破産管財人」という。)は、本件被担保債権が存在する旨の認識の表示をしていたことから、前記表示が本件被担保債権についての債務の承認(民法(改正前)147条3号)としてその消滅時効を中断するか否かが争われた。

 

【裁判要旨】

 抗告棄却。

 「破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し、又は、上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有すると解するのが相当である。」

 

☆検討

 破産管財人のした、破産者の債務の存在を認める旨の認識の表示が、当該債務の時効中断事由である「承認」に当たるかが問題となっている。

 「承認」は、時効の利益を受けるべき者が、時効によって権利を失うべき者に対し、その権利の存在の認識を表示することをいう。また、「承認」には相手方の権利の処分権限を有することを要しないとの規定(改正前民法156条。改正後152条2項に対応)の反対解釈から、管理権限は有することを要するとされている(大判大8・4・1民録25・643参照)。

 破産管財人は破産財団に属する財産につき処分権限すら有しているのであるから、管理権限は有しているといえる。しかし、破産管財人の職務は破産財団の処理をすることにあるから、破産管財人の行為が「承認」といえるためには、当該行為が破産管財人の職務の遂行の範囲に属するものである必要がある。

 そして、破産管財人が、①別除権者との間で、任意売却すべくその受戻し(破産法78条2項14号)*1に向けてその条件等を交渉することや、②別除権者に対し、権利の放棄(同項12号)をする前後にその旨を通知することは、いずれも破産管財人の職務の遂行として行われたものといえるので、債務の承認に当たるといえる。本決定はこのことを示した法理判例といえる。

 管財人のした債務の存在を認める表示であっても、それが職務の遂行の範囲外ということになれば、「承認」とは評価できない場合もあるだろう。

 

☆おまけ

 「上記」と「前記」という言葉があるんだが、僕はいつも使い分けにちょっと悩む。この決定文は「上記」で統一しており、解説文は「前記」で統一しているようである。まあ一つの文章の中ではどっちか揃えたほうがいいわな。ただなんか、あまり近いところにあるのに「上記」も少し変だし、かなり前に出てきたのに「前記」というのもちょっとなあという気もするんだよな。参った参った。

*1:別除権者に担保目的物の評価額に相当する金銭を支払って担保を解除してもらうこと。当然被担保債権の存在を認めていることが前提となる。