あかりの日記

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【判例】最高裁令和4年(受)第1176号同5年3月2日第一小法廷判決・民集77巻3号389頁

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【判示事項】

 いわゆる弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中にされた執行処分の効力

 

【事案の概要】

 本件は、Xが、Xを債務者とする動産執行事件において動産(以下「本件動産」という。)を買い受けたYに対し、本件動産の売却は無効であるなどと主張して、所有権に基づき、本件動産の引渡し等を求めた事案である。

 原審がXの請求を一部認容したところ、Yが上告受理の申立てをした。

 

 前記動産執行事件は、YがXに対する確定判決を債務名義として申し立てたものである。

 執行官が前記申立てについて、X所有の本件動産を差し押さえ、競り売り期日を定めたところ、Yは請求債権額についての誤った前提に基づいて、執行官に対し、当該請求債権の額が変更になることを知らせるため、請求債権のうち一部についてXから入金があり、請求債権の額が変更になる旨が記載された上申書(以下「本件上申書」という。)を提出した。

 執行官は、本件上申書の提出から8日後に本件動産の競り売り期日を開き、本件動産をYに売却した(以下「本件売却」という。)。

 原審は、本件上申書は民執法39条1項8号の「債権者が、債務名義の成立後に、弁済を受け…た旨を記載した文書」(以下「弁済受領文書」という。)に当たるため、本件上申書の提出があった日から4週間、執行手続を停止しなければならなかったにもかかわらず、この間に本件売却を実施したのであり、本件売却には瑕疵があること、この瑕疵は重大かつ明白なものであることから、本件売却が当然に無効となるとして、Xの請求を一部認容した。

 

【裁判要旨】

 破棄自判(控訴棄却)。

 「執行処分が弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中にされたものであったとしても、そのことにより当該執行処分が当然に無効となるものではないというべきである。」

 

☆検討

1 何をしなければならなかったか

 本判決は、弁済受領文書が提出されたことを看過して行われた執行手続が当然無効にはならない、ということを示した法理判例である。傍論として、本件上申書は弁済受領文書に当たらないという判断もしているのだが、とりあえずそこは措いて、まずは、ほんとは何をしなければならなかったかから考える。(ものすごく初歩的な話だと思うが、理解のために恥を忍んで書いておく)

 具体的には、弁済受領文書を提出した際、①執行処分を恒久的に止めたい場合と、②既に執行処分がされた場合にその効力を争いたい場合に、それぞれ本来的に何をすることが予定されているか考える。①のときは、まずとにかく請求異議の訴え(民執法35条1項)を提起するとともに、執行停止の申立て(民執法36条1項)をすべきだ。弁済受領文書を出すと4週間手続が止まる(民執法39条1項8号、2項)という規定は、この執行停止の申立てをするまでの時間的猶予を確保する趣旨のものだ。②のときは、執行抗告(民執法10条)ないし執行異議(民執法11条)によるべきである。民執法で効力を争う手続が法定されているので、まずはそれを使って下さいということだ。その趣旨は執行の実効性や執行手続の安定性を図ることにある。

 

2 執行処分が当然無効になる場合

 以上を前提にして、執行処分が当然無効になる場合を考えるが、上記②のとおりの趣旨により民執法には執行処分への不服申立て制度があることから、執行処分に瑕疵があっても、原則として、民執法上の不服申立手続で取り消されるまでは有効であり、当然無効となるのは例外的な場合にとどまると解するのが通説である。一般論としては、学説では、瑕疵が重大かつ明白である場合に限り当然無効とする、などの説があるが、重要なのは各論である。

 判例の考え方をみる。不動産について執行処分が当然無効とされるのは、執行力のある債務名義の正本を欠く場合や、「動産」でないものを差し押さえた場合、債務名義が騙取されたものである場合などのかなり限定的な場合である。他方、不動産競売の手続に瑕疵があったとしても、これによって執行処分が当然に無効となるものではなく、売却許可決定が確定し、買受人が代金を完納した以上、前記瑕疵の存在をもって買受人の所有権取得の効果を争うことはできない(最判昭和57年9月10日民集36巻8号1620頁等。民執法79条参照)とされている。

 動産執行についても、通説では手続違反は原則有効とされており、例えば、差押禁止動産(民執法131条)*1の差押えですら当然無効とはならないと考えられている。

 

3 弁済受領文書の提出を看過して行われた失効処分は?

 本件では、弁済受領文書提出による強制執行の停止の規定に違反してなされた執行処分の効力が問題となっている。民執法39条1項8号、同条2項の趣旨は上記1①のとおり債務者の便宜のためであるのであるから、執行処分が上記規定に違反してなされても、その瑕疵が重大かつ明白とまではいえず、当然無効とはいえないであろう。本判決はこのような理論的前提の下に上記のとおり判示したものと考えられる。

 

4 弁済受領文書なのか

 ところで、本判決は傍論として、本件上申書の提出をもって弁済受領文書の提出があったとはいえないとしている。弁済受領文書提出による執行の一時停止の趣旨が上記1①のような債務者の便宜を図ることにあることを踏まえ、本件上申書はYの誤った前提のもとで弁済を認めた文書であること、執行停止の意思を有していないY側から出された文書であること、本件上申書の提出がXに通知されていなかったため、4週間待ったところでXが請求異議や執行停止を申し立てる可能性は想定できなかったこと等を考慮して、本判決のような判断がされたのではないかと思われる。

 

☆おまけ

 例えばあなたが、どこかのマチベンとか、それに類するナニカだったとしよう、個人差はあるが、日常の中で執行、破産、保全などを扱うかもしれない。やっていると、やったところの手続の知識はついていくだろう。もしあなたが大都会人なら、当地の保全部や破産部のローカルルールなんかもバッチリかもしれない。だけど、法律の体系的な理解みたいなものは、どうだろうか?これは、手なりで日々の仕事をしているだけだと、なかなか身につかないんじゃないかなあ。僕は恥ずかしながら、ないんだよね、体系的理解。その場その場で来た球を打ち返すだけになっちゃってる。執行とかに限らないけど。たまには、学生の頃に買った教科書を読んで、今自分が考えていることが全体の体系の中のどの辺の話なのかとか、落ち着いて考えてみたりすると、すごく力がつくんだろうなあ。と、思いつつ、めんどくさくてやってないが。参った参った。

 

 

 

*1:実務上金銭(3号)は66万円とされている。