奈良国立博物館に到着、国宝展2つ目。あんまり移動していないが、仏像をじっくり観ているので、かなりきついスケジュールだ。

土曜でそれなりに観光客が多かったが、これがもう素晴らしい展覧会であった。
入場するや、正面に法隆寺百済観音が現れる。細身、長身、衆生を見下ろす伏し目がちなアルカイックスマイル。これこそ救済の仏像だ。「百済観音」の名付け親は和辻哲郎らしいが、実際には作者も制作場所も不明らしい。もっとも、幾何学的な衣などはたしかに飛鳥仏だ。光背の付け根には山形の模様があり、須弥山を表しているらしい。パート①でも書いたけど、展覧会の仏像は後ろから見るに限るぜ。
脇侍に法隆寺四天王立像の広目天・多聞天がいる。これも飛鳥仏。おれらの想像する四天王は(例えば戒壇院の奴らみたいな)武神だが、法隆寺のものは文官の装いで、表情もやさしい。踏まれている悪鬼もどことなくコミカルだ。
中の展示エリアにも国宝仏がずらり。法隆寺地蔵菩薩立像は9世紀の作、神護寺薬師如来に似ている気がした(要調査)。東大寺弥勒仏坐像も9世紀作、前に突き出た頭が特徴的。「試みの大仏」(大仏の試作)と言われているそうだが、時代合わなくね?(要調査)東大寺俊乗堂の重源上人坐像は、鎌倉期の東大寺再建に献身した高僧の像で、運慶作の説があるが、生前に制作されたこともありきわめて写実的である。
鑑真以降の奈良時代の木彫像もたくさん。唐招提寺伝獅子吼菩薩・薬師如来、元興寺薬師如来など。いずれも一木造り。腕がないなど、過酷な歴史に耐えてきたことがうかがえる。明治期は廃仏毀釈を逃れて奈良博で保管されていたらしい。奈良博にはそういう役割があったんだね。
釈迦如来像の典型として、中国請来の清凉寺釈迦如来立像(少し詳しく山本勉『日本仏像史講義』② - あかりの日記で取り上げた。)のほか、白鳳仏たる深大寺釈迦如来倚像と、9世紀の室生寺釈迦如来坐像が鎮座していた。全く異なる3種のお釈迦様のイメージ。
次のフロアに行くと、平安時代初期の唐風檀像である宝菩提院菩薩半跏像に続いて、平安時代末期の円成寺大日如来坐像がいた!運慶の初期の作品で、11か月かけて制作した力作。引き締まった体躯や胸を張って緊張感のある姿勢は、当時の標準だった定朝様式*1と一線を画するといわれる。おれの特に好きな仏像の1つだ。
聖武帝の金光明経や最澄の久隔帖などの書写エリアや、古墳時代の百済からの法具、七支刀を過ぎ、最後のフロアにいたのは中宮寺菩薩半跏像。黒く輝く白鳳仏は限りなく穏やかな表情であり、和辻曰く「至純」の美しさである。
展示内容もさることながら、ケースに入った展示物のキャプションが裏側からも見られるようになっているなど、展示方法にも配慮がみられ、とても完成度の高い展覧会だった。
3日目。大阪に移動して国宝展3つめ。天王寺の大阪市立美術館の日本国宝展だ。

日曜の大阪は大盛況であり、入場制限もしていたのに、中もごった返していた。
第2会場には、大阪ゆかりの仏像として、獅子窟寺薬師如来坐像と道明寺十一面観音立像がいた。
前者は9世紀末頃作で、承和年間の作品より穏やかな表情や、美しい翻波式衣文*2が特徴。後者は9世紀前半の作で、カヤ材の檀像*3であり、菅原道真公が彫ったそうだ(ほんとか?)。*4
第3会場には、薬師寺聖観音菩薩立像がいた!天平*5銅像の最高傑作の一つだ。暗めの展示会場に黒光りが映える。薬師寺東堂の水煙も展示されていた。次に奈良を訪れたら、是非とも、東塔や薬師三尊を拝みたいぞ。

仏像と同形式だが和の神の装いの、東寺女神坐像(9世紀、カヤ材の一木造)も印象的だった。
次のエリアには大倉集古館普賢菩薩騎象像がいた。12世紀前半の円派 *6作品で、定朝様を踏襲しつつ、台座などに残る模様から、鮮やかな彩色の跡がうかがえた。生で観ると想像よりデカかったぜ。
また、唐招提寺の鑑真和上坐像もいた。我が国最古の肖像らしく、急にリアリティが上がってちょっとびびった。
その他、狩野派の屏風、馬具や刀剣、火焔土器など、多様な国宝が揃っていた。展示期間の関係で雪舟や金印を観られなかったのが残念だが、大満足であった。
最後、大阪中之島美術館で開催中だった上村松園展(※既に終了。)に行った。


あまりゆっくり観られなかったが、同行者が松園の専門家なので、レクチャーを受けながら鑑賞できた。明治〜昭和の日本画界で、当時としては珍しい女性画家として、またシングルマザーをやりながら、気品ある女性を美人画に描いたそうだ。
美人画というと、女性の艶めかしさを強調して描くイメージがあるが、松園は、既婚者(四季美人図)やお母さん(母子)なども含めて、女性の気品や清澄さを描いたようだ。服装や髪型を凝ったり、年齢を服装の色で表現したりするなど、女性ならではの視点(という言い方が適切か分からないが)もみられるようである。松園自身より少し前の明治初期の風習を描いたり、古典(花がたみ、序の舞等)を描いたりするといった作風も特徴的だ。
おれ、なんというか、フェミニンを強調した創作物がちょっとニガ手なんだよな。いや、もちろん家ではエロ漫画読んだりするけどさ、例えば、駅とか街中とかに、乳のでかい女の子の萌え絵がどーんと出てると、何かいたたまれないというか、目のやり場に困るというか*7。しかるに、松園の絵はジッと観ていてもそういういたたまれなさをあまり感じなかった。それは、単に美術品だからかもしれんけど、やはり、作風の影響もあるのかなと思う。エロくない。それでいて、美しい女性の描き方。とても心地よく鑑賞できました。
それから、松園氏、その経歴や作風から、ジェンダー論的な視点からもかなり語れそうな人物だと思った。まあ、その辺はネットに書くと色々あれなので、心の中で検討することにしよう。
なかなか過酷なスケジュールだったが、学びの多い旅行だった。仏像をはじめとして、美術鑑賞への関心がとても高まった。こういうのでいいんだよ。
3国宝展はいずれも6/15まで、まだ間に合う。お前らも急げ。
一緒に行ってくれた方、ありがとうございました。

(左から、円成寺大日如来坐像、法隆寺百済観音、中宮寺菩薩半跏像、大倉集古館普賢菩薩騎象像)
*3:山本勉『日本仏像史講義』② - あかりの日記の注1参照
*4:なお、『日本仏像史』p50「伝試みの観音」とは別物。道明寺には文化財たる十一面観音像が2体いるんだな。
*5:山本勉『日本仏像史講義』① - あかりの日記でも述べたが、白鳳仏説も有力。